十字軍の背景 東スラヴ人の動向 キエフ大公国 11世紀末のヨーロッパ地図
11世紀末のヨーロッパ地図 ©世界の歴史まっぷ

十字軍の背景

セルジューク朝が小アジアに進出、ルーム・セルジューク朝(1077〜1307)を樹立すると、ビザンツ帝国は危機に瀕し、アレクシオス1世コムネノス帝は、ローマ教皇をとおして西ヨーロッパの君主や諸侯に救援を要請した。叙任権闘争の渦中にある教皇にとって、皇帝権に対する教皇権の優位を確立し、1054年以降分離した東方正教会を再び吸収・統合する絶好の機会であり、1095年クレルモン教会会議で聖地回復の十字軍を宣言した。

十字軍の背景

ヨーロッパ世界の形成と発展 ©世界の歴史まっぷ
ヨーロッパ世界の形成と発展 ©世界の歴史まっぷ

古代末期以来のキリスト教の普及とともに、ヨーロッパの人々の間に聖地巡礼熱が高まった。なかでも11〜12世紀ころには、ローマ、イェルサレム、サンティアゴ・デ・コンポステーラが三大巡礼地として人気を集めた。

サンティアゴ・デ・コンポステーラ:キリストの十二使徒のひとり聖ヤコブの墓があると信じられたイベリア半島世北端の都市。サンティアゴは聖ヤコブのスペイン語名。

だが、それらの地域への巡礼はいずれもイスラーム勢力との緊張関係をはらむものであった。すでに、東方における東ローマ帝国やイスラームとの戦いは長期化していたが、西方のイベリア半島でも、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼熱と相まって10世紀頃からキリスト教徒の国土回復運動レコンキスタ)が盛んとなり、イスラームとの戦闘により北部の各地にキリスト教の小王国、公国が自立していた。当時のヨーロッパで、この聖地巡礼とレコンキスタを積極的に奨励したのが、教会(修道院)改革運動の中心をなすクリュニー修道院であった。またイタリア半島南部でも、定着したフランス系ノルマン人がイスラーム統治下のシチリア島を征服(1061〜1091)、さらに東地中海に進出してイスラームや東ローマ帝国との間に戦いを引き起こしていた。

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こうした西ヨーロッパの勢力拡大の背景には、封建社会の安定と農業技術の革新に基づく生産力の向上、および人口の増加があった。ドイツでは11〜12世紀になると、貴族や教会、市民や農民が主体となったエルベ川以東への植民運動が活発化し、スラヴ系を中心とする現地人を同化、吸収して、ドイツ語圏を広げていった。またドイツ領のネーデルラント(オランダ)でも、ハーフェル川一帯の沼沢地の干拓が行われるなど、各地で開墾が進展した。いわゆる大開墾時代の到来である。他方、農業生産の増大は商業や手工業を発展させることになり、中世都市が成立し始めた。このように、12世紀の西ヨーロッパは、激しい動きに満ちた「革新の時代」であったといってよい。そして、その激しさを象徴する事件のひとつが十字軍であった。

東ローマ帝国では、11世紀半ばにマケドニア朝にかわったコムネノス朝のもとで、従来の屯田兵制とテマ制が廃止 東ローマ帝国 初期ビザンツ帝国 – 世界の歴史まっぷ)され、ノルマン人などの外国人傭兵に国土防衛を依頼するようになった。
折しも、セルジューク朝が小アジアに進出し、ルーム・セルジューク朝(1077〜1307)を樹立すると、東ローマ帝国は危機に瀕することになった。
そこで、東ローマ帝国コムネノス朝初代皇帝アレクシオス1世コムネノスは、1095年、ローマ教皇をとおして西ヨーロッパの君主や諸侯に救援を要請した( 東ローマ帝国 後期ビザンツ帝国 )。それは、叙任権闘争の渦中にある教皇にとって、皇帝権に対する教皇権の優位を確立し、さらに1054年以降分離した東方正教会を教皇の手で再び吸収・統合するための絶好の機会であった。ここにウルバヌス2世(ローマ教皇)(1088〜1099)は、中部フランスのクレルモンに宗教会議を招集、聖地回復の十字軍を宣言したのである(1095 クレルモン教会会議)。

クレルモン教会会議とウルバヌス2世の演説

クレルモン教会会議(1095年11月17日〜27日)には聖職者、諸侯、騎士などが参加した他、多くの民衆が傍聴に詰めかけた。
教皇は教会改革の初決議を経て、会議終了直前の11月27日、次のように聖地回復を呼びかけた。
「東方で、わたしたちと同じようにキリストを信ずる人々が苦しんでいる。かれらはわたしたちに救いを求めている。なぜであるか。それは異教徒が聖地を占領し、キリスト教徒を迫害しているからである。……神はその解放をみずからの業として遂行なさる。この神のみ業に加わる者は神に嘉せられ、罪を赦され、つぐないを免ぜられる。キリスト教徒同士の不正な戦いをやめて、神のための正義の戦いにつけ。この呼びかけに応じた者には、現世と来世を問わず、すばらしい報酬が約束されている。ためらうことはない。現世のどんな絆も、あなた方をつなぎとめることはできない。なんとなれば、この企ては神自身が指導者であるから。」と。感動した聴衆は立ち上がり、口々に「神はそれを欲したまう」と叫んだと言われる。

参考 十字軍 (教育社歴史新書―西洋史)

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